金融vs国家 ~国の金融への関与

制度設計力 資本主義のもとで産業発展のための「資金の資本化」をいかに円滑に行うかを定める戦略である。
主な手段は、商業銀行・投資銀行・ヘッジファンド・プライベートエクイティといったラインナップである。制度設計には
金融政策目標や税制体系構築のような政策的ソフトウェア計画も含まれる。中央銀行は消費者物価安定だけを
目標にするのか、あるいは資産バブルを防ぐところまで視野に入れるのか、また会計制度や税制における金融取引の
取り扱いは国が金融をどう位置づけているのか知るバロメータになる。さらに預金者をどう守るか、海外資本流入を
どこまで認めるか、不正金融行為をどう対応するかといった点も重要な項目である。

環境適応力 経済活動の国際化や金融取引の複雑化に対して金融制度をどのように適応させていくか示すものだ。
企業が競争力を高め、市場開拓を行うに際して、古い慣行や制度が邪魔になることもある。その場合に、国がどこまで
制度を修正する意欲や熱意があるのか、市場経済はじっと監視している
。そこに疑問を感じれば合理性を重視する
金融ビジネスはあっさりとその場所を放棄するだろう。

金融育成力 国の金融観がストレートに表現されるものである。間接的にではあるが金融産業の生産性の対GDP比
によってある程度類推することができる。日本の場合、07年2QのGDPに占める金融・保険部門のシェアは6.3%である。
10-15%金融で稼ぐといわれる英米の水準とは大きな差がある。日本の自動車メーカーが世界一になれるのに、なぜ
銀行や証券会社が世界一になれないのかという問いには、産業の特性や経営の体質もさることながら、国家としての
取り組み姿勢が少なからぬ影響を及ぼしている
ことにも着目する必要があろう。


手形、約束手形、最近ではCPや電子CPといった形式に移行し始めているが、これを発明したのが中世イタリアの商人
であった。イタリア語で銀行を示すBancoが現在のBankの語源であるといわれる。為替手形は、中世キリスト教社会
において必ずしも歓迎されなかった「金利の受取」を巧妙にカモフラージュ
して、交易決済と融資という要請を一手に引き
受けるという画期的で実利的な高金利ビジネスを生み出した。

国際金融という力学の場には宗教や国家といった権威を裏づけとする政治的あるいは制度的な磁力が大きく影響する。
それは中世イタリアから21世紀の現代に至るまでそれほど変わっていない。
金融が成熟する過程において、英米という2カ国が金融競争力で優位に立った背景に、両国家が資本を活性化する
ために「金融市場機能」の重要性を発見したことをあげることもできる
だろう。基軸通貨ポンドを擁したロンドン市場は、
19世紀半ば以降のグローバリゼーションの波に乗って、各国の資本活動を誘引していく。英国債を発行する英国政府
だけでなく、英国に蓄積された資本を求める国々も資金調達のために集まるようになった。つまり、同市場では英国債
と並んで各国の国債が売買されていたのである。国債金利は英国債をベースにどの程度の「リスク・プレミアム」が付加
され、金利差は資本の再分配システムにとって極めて重要な市場情報となる。こうしたプライシング機能もまた英国市場
の優位性を支えていたのである。英国市場が英国自身の資金調達同時に海外諸国の財政資金調達の場として発展
したのと対照的に、米国市場は新興国として成長する自国経済を支えるための調達の場として発展することになった。
国家債務に関する基本路線を敷いたのは「新興国はいかにして資金調達のための信用力を高めるべきか」という命題
に腐心した初代財務長官のハミルトンである。その資本哲学が後日、米国市場のイールドカーブを生んだ
といってよいかも
しれない。満期ごとに利回りが示されるその市場メッセージは、巨額の経常赤字を海外から吸収するために大きな威力
を発揮する。3ヶ月から30年といった長期まで1日ごとに理論的な利回りが市場から試算できるという機能的な金融イン
フラを最初に生み出したのは米国の国債市場である。国債償還が特定の年に集中しないように管理する政策は
投資家にとってはさまざまな満期を選択できることになり、結果として満期に応じた金利水準の設定も促されることになる。
イールド・カーブという市場機能は、国債市場に資金吸引力を与えるだけでなく、スワップと呼ばれる派生商品の市場形成
を通じて、資本市場の威力を発揮する効果もある
。米国では国債市場がスワップを作ったのに対し、日欧ではスワップ
金利が国債市場の理論的水準を与えるという逆のプロセスを通じて国債の多様化がもたらされたのである。

現代国際金融の主導権が大西洋地域にあることもまた紛れも無い事実である。東京や香港・シンガポールなどのアジア
の資本市場は国際金融の文脈においては補完的な存在にすぎない。

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