インド対パキスタン ~パキスタンの核開発

「パキスタン原爆の父」アブドル・カディール・カーン博士

1936年、インド中部のボパールにイスラム教徒の子として生まれ、パキスタン独立の後、52年にカラチに移住。ベル
ギーのルーベン大学で博士号を受けたあと、濃縮ウラン製造技術では世界的に有名なURENCO社(英、独、蘭3カ国
合併)の系列会社、FDO社(オランダのアムステルダム)に冶金学専門家として72年4月に就職
した。ここでの勤務を
通じてカーン博士は、濃縮ウラン型原爆の製造に必要な高度なウラン濃縮技術を身につけた。

インドが98年の核実験再開まで一貫して「核兵器製造能力は保有しているがそれは万一の場合の選択肢であって、
現実には核兵器を保有していない」とするオプション・オープン政策
を堅持してきたのと同様、パキスタンもまた今回
の核実験実施までは「核兵器製造能力はあるが、実際には持っていない」とする政策を堅持してきた。パキスタン
が「経済援助」と「事実上の核抑止」を両立させる「あいまい戦略」をとり続けることができた最大の理由は、米国が
パキスタンの核兵器開発を知っていながら、これを事実上黙認してきたためだ。米国が早い段階でパキスタンの核
兵器開発を知っていたという証拠は二つある。74年9月にCIAは「核兵器の将来の見通し」と題した報告書を発表し
(これは74年5月のインドによる初の核実験を受けて、急遽まとめられたもの)、「パキスタンが核兵器開発を完了する
には少なくとも10年かかるが、外国の支援を得ればもっと早くできるだろう」と指摘したことが第一。第二はフランス
国営原子力関連メーカー、SGNがパキスタン政府との間で契約したプルトニウム濃縮のための再処理施設(イスラマ
バード南西180kmの砂漠の町、チャシュマに建設を予定していた)建設プロジェクトについてフランス政府に圧力をか
けて78年6月に破棄させていたことだ。これは当時のジミー・カーター政権がパキスタンの核兵器開発疑惑をはっき
り認識していたことによる。ところが79年12月に事態は一変する。ソ連軍が突如としてアフガニスタンに侵攻したた
めだ。米ソ緊張緩和の最中に起きたソ連の軍事行動は、米国を驚愕させるとともに、アフガニスタンがソ連によるイ
ンド洋進出の回廊にあたるところから、米国は一気に緊張の度を深めた。アフガニスタンの隣国パキスタンはまさに、
このソ連によるインド洋なんかを阻止しうる格好の地理的位置にあるため、米国は急遽、膨大な量の軍事・経済支
援をパキスタンに注ぎ込み、パキスタンをソ連のインド洋進出を阻む防壁として利用した
のだ。こうしてそれまで神経
を尖らせていた「パキスタンの核開発疑惑」は、脇に押しやられ、カーン博士は心置きなく核兵器開発に専念。87年
にはウラン型の原爆の最初の構成要素が完成した。しかし、89年に入ってソ連軍がアフガニスタンから完全撤退す
るや、状況は再び一転する。ソ連によるインド洋南下の脅威が去り、その防壁としてのパキスタンの戦略的価値が
低下するや、前述の通り米国は手の平を返したように10年間にわたって事実上不問に付されていた「パキスタンの
核兵器疑惑」を持ち出し、「核開発を中止しなければ援助を打ち切る」と猛烈な圧力をかけた。ソ連のアフガン内戦
介入時代の10年間に米国からの巨額の援助が国家財政の不可欠の部分を占めるに至っていたパキスタンはこれ
に屈し、核兵器開発は凍結された。

パキスタンは自国内にウラン埋蔵は無く、重水の製造装置を持たず、核兵器の組み立てのための関連部品に使わ
れる資材のほとんどを外国に依存している
、きわめて脆弱な基盤に成り立っているのが大きな特徴となっている。
インドのような自己完結性を持たないがゆえの脆弱の基盤に加え、パキスタンの核兵器開発にはもうひとつ大きな
弱点がある。ウラン型の原爆は構造が簡単で製造が容易である代わりに、プルトニウム型に比べて重量が重く小
型化が難しい
ことだ。プルトニウム型原爆は改良を重ねることで小型・軽量化を進めて比較的早くミサイル搭載タイ
プを開発することができるのに対し、ウラン型は小型・軽量化が容易ではないため、どうしても航空機搭載に頼らざ
るをえない。その結果、ウラン型原爆はミサイル搭載タイプのプルトニウム型に比べて、相手に対する核兵器として
抑止効果が大幅に落ちる。パキスタンは、広島型の原爆6~10個分の兵器級高濃縮ウラン・部品を保有している
とみられる。その全体構成要素は87年ごろ最初のものが完成し、89年に開発が凍結されたものの、90年にカシミ
ールをめぐる対インド関係緊張激化を受けて再開され、その後91年以降は濃縮ウラン型原爆の開発は凍結されて
いるとみられる。現在は、小型・軽量化が容易な長崎型のプルトニウム型原爆の開発を目指していると推測される。

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