初等ヤクザの犯罪学教室 ~犯罪の認知と条件

贈り物の正しい差し上げ方

百貨店の取引口座というものは一種の利権でありまして、そうそう簡単に手に入るものではない。なにしろ店内に商品が並び
さえすれば、ネームバリューと便利さからお客がどんどん買っていってくれるのです。K君が8年前に目をつけたのがこの利権で
ありました。K君は当時、金融商品や故買品を取り扱うかなりダーティな、いわゆるバッタ屋でありました。もちろんその頃は大
した金などなくて、懲役覚悟でヤマを踏む、一介のブラックバイヤーだったわけであります。しかし、年に似ず、変に肝の座った
ところがあり、人当たりも良かった。成功する素質はかなりのものを持っていました。そんなある日、K君がふらりと私の事務所
に現れて、こんなことを尋ねたことがあります。

「ねぇ、浅田さん、ワイロっていうのはいったいどこまでが犯罪で、どこまでそうじゃないんだろうね
「それは金額じゃないね。相手による
「相手?」
「そうさ。刑法でいう贈賄罪は『公務員受託贈収賄』といって、公務員とか訴訟の仲裁人とか社会に対して公平でならなければ
ならない人を金であやつった場合にのみ成立する
ものなんだ」
「え? じゃあふつうの会社の場合はどうなんだ」
「営利目的の会社の場合、社会に対して必ずしも公平である必要はないし、第一接待とワイロの境界をどこで引く?そんなこと
できるわけないだろう?」
「じゃあ、相手方の担当者にワイロを贈っても犯罪じゃないわけだ」
「そういうことになるな。ただし経理上の監査とか、株主総会とかの場合についてはダメ。商法に規定がある。あとはワイロ工作
によって会社に実質的な損失を与えた場合は背任罪ということもあるし、金を渡したんだからこうしろと脅せば恐喝だ」
「なるほど。会社に損させずに、スマートにやれば良いわけか。」
「そうそう。法に触れないんだから、バレても君には関係ない。相手がクビになるだけさ」

K君はまず、これと決めた百貨店の人事情報を出入り業者から入手する。実質的決裁権をもっている担当者をひとりだけ選び
出すのであります。念のためにと言って複数の人間を狙うのはタブーだそうです。次にターゲットと接触する。人を介しても良い
し、いきなり名刺を差し出してもかまわないが、最善の方法はバーゲン会場専門の「企画屋」と呼ばれるセールス・プロモータ
ー、つまり口座貸し専門の出入業者を通じてとりあえず一度、損得抜きの商売をする。酒席を設けるのも良いが、近頃はゴルフ
というたいへん便利なものがある。そして帰りに一杯やってすっかり意気投合したところに「いや本当に楽しかった。あ、それか
らつまらないものですが、お車代に」と言って酔ったふりをしながらかねて用意のあった封筒をポケットにねじ込むわけです。
ところがこれは小手調べ。封筒の中には本当にお車代程度の3万円とか5万円というお金しか入っていない。いわゆる誘い水
であります。大して面識もないうちに大金を差し出すというのは愚の骨頂で、相手も警戒するし下心も見えすぎる。「過分なお車
代」によってなによりもまず相手にある期待感を抱かせることが肝心なのであります。実はこの「ある期待感を抱かせる」
ということこそ、ワイロの極意でありまして、その状態を維持させたまま商談を持ちかけ、こちら側の営業態勢や商品内容を詳
細に説明する。
相手は必ず真剣に聞きます。そしてタイミングを見計らって「実弾」を手渡す。K君はワイロの隠語である「実弾」という言葉は使
わず「実包」といいました。

社会的地位の上がった泥棒

かつて泥棒は破廉恥罪などと呼ばれてまして、よほど名の知れた大物でもない限り犯罪者たちからは疎んぜられてきました。
その根拠は甚だ曖昧ではありますが、たぶん「命がけではない」とか「生活のために他人の財物を奪う」といった軽さが、彼らを
低級な犯罪者に位置づけたのでしょう。泥棒がそのように肩身の狭い思いをしたのは一昔前の話で、檻の中で彼らをかばい立
てする気遣いなど、近頃では全くなくなった。
今や彼らは房の中でも実に堂々と幅をきかせていてこれはどこのおアニイさんかなと思っているとつまらぬ万引き常習者だった
りする。この現象はどこの留置場でももはや一般的であります。いったいどうしたわけで泥棒の社会的地位がかくも向上したかと
考えますと、どうやら年間20数万人という検挙人数がものをいっているらしい。逮捕される頭数がほかの犯罪者に比べて多いの
は昔も今も同じなのですが、民主的な戦後教育を受けた犯罪者が大多数を占めるようになって、場所柄も関係なく多数派こそが
メジャーであるという社会通念が生まれた
。それともう一つは、欧米流の合理主義が古来の犯罪通念を駆逐して私利を図ること
は決して破廉恥ではないという考え方が支配的になったからでしょう。

完全犯罪を実行できる環境と条件

犯罪捜査には法用語で言うところの属地主義という原則があります。例え被害者が日本人といえども、発生現場が外国であれば
日本側の捜査権は及ばない。警察との戦いは一口に言って証拠の奪い合いであります。私が「知人を殺す」という犯罪計画を立
てるとしたら、やはり実行場所はアメリカを選びます。誰でも考えつく国は治安の悪い東南アジアのどこか
でしょう。しかし法治国
家としてあるレベルに達していない国は実は犯罪者にとってもリスクが大きいのです。つまりこちらがどんなに周到な計画を立て
ても、その後の展開が読めない。たとえば警官同士の撃ち合いが日常茶飯事などという未成熟な国では、捜査活動に一貫性が
無いから完全犯罪そのものが計画してできるものではない。しかも外交的には日本と対等の国でなければ、いつなんどき属地
主義の法原則を破って日本の警察が捜査に介入してくるかもしれない。

では次に先進国における警察力、つまり敵の実力を比較してみます。以下は1985年における各国の殺人事犯の認知件数と
その検挙率です。

イギリス 1819件 79.1%
西ドイツ 2796件 95%
フランス 2497件 84%
米国 18980件 72%
日本  1847件 96.1%

一見しておわかりの通り、米国はまさしく殺人天国なのであります。なんと1年間にわが国の10倍以上の殺人事件が発覚し、
そのうち5300件が犯人不明というわけです。

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