ソ連解体後 2/6~地下経済の実態

ゴルバチョフ時代になって進められた「グラースノチ」のおかげで、旧ソ連国内のマスメディアにおいても地下経済の実態とマフィアのかかわりあいが詳しく報道されるようになった。1991年「イズベスチヤ」紙のアンドレイ・イレッシュ社会部長が執筆した『ソ連にマフィアは存在するか』が公刊され、それによると地下経済は大きく以下の4つのカテゴリーに分類されるという。
第一は、荒稼ぎを狙った犯罪的商品の売買で、ごくありきたりの盗品売買から巨万の富を稼ぎ出すポルノ産業や麻薬ビジネスまで様々な種類がある。
第二は、非合法な商品生産とサービスの提供で、公的部門から盗み出した資材(食品、ガソリン、建設材料等々ときりがない)によるう商品生産や機械・機器によるサービス提供が行われている。
第三は、闇行為で、近年ますます大規模化している。
第四は、合法的に存在する地下経済、つまり、実際には生産していないのに、出荷したように見せかけて水増しすることによる不労所得の獲得である。


同じ『ソ連のマフィア』の中では、地下経済に関する数少ない専門家の中でとりわけ高名なタチヤーナ・コリャーギナ女史の試算が引用されている。それによると、何らかの形で地下経済で働いていることになる。地下経済は、旧ソ連の主要物資生産高の約1.5%を支配し、これをベースに3万人に及ぶ地下富裕階級が形成されているという。主要物資生産高に占める地下経済のシェアが約1.5%という試算は、案外小さいという印象を与える。地下経済がとくに有効に働いているのはやはり輸送・流通・サービス部門で、それは旧統制経済システムの下では長い間物の生産が極端に偏重され、輸送・流通・サービス部門は軽視され続けてきた弱い部門であったためである。ここに経済マフィアが広く介在する余地があった。


旧ソ連、ロシアにおけるあらゆる改革は上からの改革である。ペレストロイカも市場化も例外ではない。下からの改革が起これば、それは革命に転じる。上からの改革であるから改革は如何にあるべきかについてまず議論があり、次に改革のコンセプト作りをめぐって議論が紛糾し、さらに改革の具体的プログラム作りをめぐる意見の対立が容易に政争に転化し、その間に貴重な時が失われてしまって本来の改革は一向に進まないのである。

国有企業の民営化と大規模集中経営の分割、コルホーズ(協同組合農場)とソフホーズ(国営農場)の自営化・私営化は市場化用件の中でも特に重要な条件である。エリツィン・ロシア大統領は、エネルギー部門や輸送部門などを除いて国有企業の全面的株式会社化計画を打ち出し、1993年1月から株を売り出すと公表した。この措置に備えて、ロシア国民全員に対して、株と交換できる1万ルーブル分の証券(民営化証券)を無料で配布する手続きが1992年10月1日から始められた。このあまりにも人工的な民営化措置が成功するかどうかはまったくの未知数であるが、民営化証券を受け取った国民がそれを他人に売却し、消費に走ってしまえば、インフレをさらに加速する懸念があり、貧富の格差をひろげる恐れもある、ということでロシア国内で批判が高まっている。

大規模企業による独占的生産の弊害で1992年1月の価格自由化以降、大規模企業は生産を増やさず、価格を引きあげるだけで莫大な利益を上げることの味をしめ、それは物不足とインフレ高進の元凶になっている。旧ソ連の計画化経済システムの下でも、たとえば数年前、首都モスクワの店頭から洗剤がまったく姿を消して大騒ぎになったり、シガレットが全く無くなって愛煙家達を嘆息させたり、「マールボロ」一箱でタクシーがモスクワのどこへでも行ってくれるという馬鹿げたことが起こったりした。これは洗剤やシガレットが旧ソ連の1箇所か2箇所にある超大型工場だけで生産されていることと密着した関係にある。災害とか、生産設備の故障とか、リストラとかストライキとか、何らかの原因でそうした大企業の操業停止が数ヶ月も続けば、市場への当該製品の供給は全く途絶えてしまうのである。このような弊害を克服するために、民営化と分割化の必要が叫ばれているわけであるが、ウラルのペルミ市にある大せっけん正常工場を訪問してみると、せっかくのイタリア製の高性能機を設備しながら、せっけん製造用の原料はカザフスタンから、紙箱製造用のボール紙はサンクト・ペテルブルグからの長距離輸送に頼って供給されているとのことっだった。不経済この上ない話で、産業構造と産業配置の抜本的変革が必要である。


農業の私営化もまた非常に困難である。中国やベトナムにおける農業の私営化の成功を引き合いに出し、旧ソ連CISでも市営化が農業を活性化する、という主張がある。しかし、中国やベトナムでは国民経済に占める農業の地歩が圧倒的に高く、就業人口に占める農業のシェアも圧倒的に大きい。また両国の生活水準は国際水準を遥かに下回っている。こうした状況から農業の私営化は農民に対するインセンティブとしてきわめて有効に働き、農業生産を一時的に大幅に増大させ、経済全体の成長に著しく寄与した。ロシアや他のCIS諸国では、中国やベトナムにおけるような事態はまず起こらないと見られる。

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ブレジネフ時代(1964~82年)には「ブレジネフ農政」といわれたほどに農業が重視され、国家投資全体の30%前後が農業分野に投入されたのに、農業生産は生産国民所得(GDP)の17~18%に寄与しただけであった事実を想起する必要がある。市場経済への移行と市営化とは、こうした農業重視策が打ち切られることを意味している。一方、これまでの農業管理体制が崩壊した結果、コルホーズとソフホーズの指揮・管理はずさんになり、人手と肥料の不足、輸送手段の不備などに対処することができず1991年の歴史的不作の要因となった。1991年穀物収穫高は1億5500万トンにとどまり、前年に比べ27%減と激減した。この主因は上のような理由が重なって約700万ヘクタールという広大な耕地の穀物が全く収穫できなかったことにある。また農民自身もコルホーズ解体に対する反対が強い。市営化への不安がつきまとって離れないのである

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