新オプション取引戦略の考案 2/3~基本はカレンダースプレッド

前回、暴落対策というのがプロ・アマともに如何に厳しいか示したのだが、長い上昇相場に耐える暴落対策はいかなる形になるかの答えを言おう。

※今回は、かなり内容が難しく、単語はWikipediaに載っているはずですが、実戦経験による前提知識の説明が足りてないかもしれません。わからないことがあったらコメントかツイッターで質問してください。

GreeksがDelta Long, Gamma Short(Theta Long)となっていて、かつ、イントリンシックバリューによる損益曲線の下方が左肩上がり(=右肩下がり)になっていてプラスにまで突き抜けている形である。後に分かることだが、この形は必然的にVega Longを伴う。プット・レシオスプレッドで頑張ればなんとかなるかもしれないけど、暴落してもホントに儲かるの?ってくらい、あるいは中途半端に下げたらクソ損するほどに、手前を売らないといけないので、仕上がりとしてはけっこう厳しいでしょ?


このポジションを形成するのに最もシンプルなポジションは、十分にアウトなPutの買いとコール・カレンダースプレッドのLongである。カレンダースプレッドとは何かがわからない諸君は以前の記事を読み返し復習してくれたまえ。

2012.05.10 Calender Spreadのススメ
2012.05.15 Calender Spreadのススメ2 ~株価と時間軸上の損益曲面
2012.05.21 Calender Spreadのススメ3 ~期待通りの期待値曲面

カレンダー・スプレッドの重要な特徴は、パート1である 2012.05.10 Calender Spreadのススメ より

Calenderの主なエクスポージャーとリスクは下記の3点である。

1)Strikeへ向けてのDelta(Forward=Strikeになると最大収益確保)
2)期近売りによるNet Gamma Short(ゆっくりとStrikeに向けて株価が動けばキャリーポジディブ)
3)期先買いによるNet Vega Long(Volatilityが上がれば儲かる)

上記で私が何気なく使っているコール・カレンダースプレッドは、コール・オプションを用いたカレンダースプレッドの構築、一般にITMは取引しないという前提(米国市場ではITMもジャブジャブに流動性があるので実は取引可能)では、上方にストライクがあるカレンダースプレッドのロングという意味なので、Delta Longを伴うカレンダースプレッドという意味になる。ちょっと難しいかな?


しかし、Naked Put LongのDeltaとThetaのShortをカバーしてDelta Longになるほどにコール・カレンダースプレッドを積み上げるとなると、枚数がかさみ、カレンダーに支払うプレミアムとGamma Shortもそれなりのものになる。私の考えでは、リーマンショックのような真の大暴落の前に、2007年のピークから2008年9月まで1年くらいかけて-20%程度の下落があり、その過程で、買っていたPutの満期は大丈夫か? という不安が残る。私が欲しいのは2年超のPut Optionなのだ。

となると、Gammaが小さい2年のPut Longに対して、ショートタームのコール・カレンダースプレッドでカバーしているので、Delta Long維持のためにかなりコマメにカレンダースプレッドを構築しなおし、かつまた、FOMCやNFPRなどの短期的なVolatility需給ともお付き合いしなければならない

そこで私が採用したのが、買い集めるPutもカレンダーでかき集め、デルタを殺し、ガンマショートを伴う形である。例えば1年の1950 Putを売って、2年の1950 Putを買う。ところが、長いカレンダースプレッドは、ガンマが弱いので、ストライクをスポットより多少上下に動かしてとっても、両者ともにデルタが余り動かない。またフォワードが2016年12月物(DEC16)で1950とスポットより3%弱ほど下がっていて、2015年12月物(DEC15)で1960程度なので、DEC16がATM、DEC15は10ポイントアウトになるので、この1年のフォワードの下げの分だけデルタが若干マイナスに作用してしまう

もちろん、ストライクを2000、2050と上げていけばデルタはプラスになるが、かなりITMで各オプションのプレミアムが大きくデルタも高いので、コンビネーション取引の際の片側残しのリスクが大きい。またこのカレンダーによって得られるデルタが小さすぎるので、次のように変更した。

1.普通のカレンダー DEC15 1950 Putを売って、DEC16 1950 Putを買う。
2.カレンダー・プット・スプレッド DEC15 2000 Putを売って、DEC16 1950 Putを買う。

この2をカレンダー・プット・スプレッドと命名するが、カレンダースプレッドのロングとプットスプレッドのショートのような形である。そしてカレンダー・プット・スプレッドがダンシングドラゴンの基本コンポーネントとなる。

Calender-Put-Spread.jpg

ではまずカレンダー・プット・スプレッドのビヘイビアの理解から。カレンダースプレッドを理解していれば、形はほとんどカレンダースプレッドと同じである。下記に組んだ当時(current)、1年後、2015年12月が満期時、イントリンシックバリューの推移を示した。カレンダースプレッドのロングのイントリンシックバリューは、支払いプレミアム分だけ全部の株価に対して沈んでいる必負け曲線に見えるので、あまり意味が無い。このグラフに、時間経過による変化を加えることで、初心者にもこのポジションの動きが分かるようにした。ジワジワゆっくり上がっていく相場に強く、極端に上がったり下がったりすると損をするポジションであることが分かると思う。

この例では、スポット2000としているので、上昇方面は、2300くらいまでは耐え切ることができる。長い上昇相場を想定すると、御覧の通り非常に弱いデルタ(ピンクラインの推移)で、かつ、時間が経つとデルタはマイナスになってしまうので、このカレンダー・プット・スプレッドの行使価格を上げつつ、何個も追加的に組んでいくことになる。2013年8月からの相場だとずっと単調な上昇相場なので、原則ガンマショートにデルタが食われて極小のデルタになってしまうので、その時点で新規に組むわけだが、

デルタを強めに取りたい時は、行使価格の間隔を離す。
高いボラティリティを買いたく無い時は、短めの期間で組む。
弱めのデルタを維持したい時は、ITM気味のプットを売る。(例と同じポジションをスポットが1800の時に取れば、2300まで耐えられる弱いデルタロングを続けるポジションとなる。)

デルタ・ガンマという観点では非常に繊細(要はほとんどゼロ)なコントロールとなるので、補間的なデルタやガンマの調整は短めのカレンダー・スプレッドで行う。ネイキッドは個人的に売りも買いも好まないので、ネイキッドで調整はしない。「株は今売りか買いか?」という質問に私は答えをもっていないから、オプション・ポジションをとっているのだが、ネイキッドの取引は、上げ下げベットの要素が強すぎるからである。全部オプションのコンビネーションで組みたがるのは私の好みなので、調整、特にデルタの調整は先物を使ってもいいかもしれない。

このポジションの持つリスクの主人公は、Vega(Volatility)とRho(金利)である。

2014.07.28 続・オプション・トレーディングにおける個人投資家とプロの違い、グリーク(リスク指標)の見方

でしつこく説明しているが、日経のオプションしか経験が無いアマ諸君は、Vegaや長期のボラティリティの振る舞いに慣れていないと、怪我をするかもしれない。私にとっては長いオプションやVolatilityのTrade自体に、個人投資家が大好きな1Month以下のオプション取引よりも遥かに経験がある。例えば、短期のオプションの場合はVega、インプライドボラティリティの変動というより、直接プレミアムの変化を見て、デルタ・ガンマでは説明できない動きはベガよりはオプション需給変動要因としてとらえるべきである。長期の場合、%Gammaと%Vegaで見るとか、オプション需給変動要因は金利とIVとキャリー要因に分解されるとか、短いオプションでは見なくてもよいことが影響してくることを注意しておく。

大きなベガロングがどのくらい厳しいかと言うと、平時のジリジリあがる上昇相場では、若干の下降傾向を保ちながら、ボラティリティのタームストラクチャーが保たれることが多い。例えば現在はDEC15のATMが15.5%、DEC16は17.2%程度なので、DEC16を1年持っているとDEC15のレベルに近付いていくので1年で2Vegaも下がることになる。ガンマショートでポジティブキャリーのはずのポジションではあるが、2Vega落ちるということは、250営業日÷2VegaでThetaに対してVegaが125倍以上あると全てが消えてしまう。あるいはVegaの0.8%くらいのThetaは打ち消してしまうこともありうると覚悟しなければならない。そのためにDeltaも微弱ながらもロングにしておかないと、このポジションを上昇相場でプラスで維持することはできない。

【市場と実戦:Vanilla・幾何ブラウン】
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