中国人民解放軍の内幕 3/3~軍系企業の系譜

リストラ人員の受け皿としての役割や兵器を裏で支える技術力、そして武器輸出と言った角度から対象にきりこんでみたいと思う。1つは、その歴史がもっとも古く、兵器など人民解放軍の装備を技術面から支えてきた機械工業部の系列である。兵器製造と販売にかかわる企業は、たいていがこの系列からの派生企業である。2つ目が、これを源流として生まれた新潮流で、中国が武器の輸出に乗り出すのと同時に生まれた、兵器輸出を手掛ける軍系商社である。そしてこの新潮流のさらに支流として誕生したのが3つ目の、保利グループなどの四総部系国有企業である。

この四総部系企業グループは鄧小平が世界に向け公約した人民解放軍兵員の大幅削減である"百万大栽軍"(1985年6月4日発表)が実施されるのに合わせてリストラの受け皿として設立された企業である。その代表が保利グループであり、その他にも中国新興集団、中国新時代集団といった軍系国有企業が有名だ。鄧小平による軍のリストラによって、解放軍は四百万人を越えていた当初の兵力を二百万人まで縮小した。リストラの初期には公安部や鉄道部などがその大きな受け皿として機能していたのだが、それでもキャパシティを越えて大量のリストラ兵士が吐き出されえてくる。その処遇に困った党中央が、国務院、軍委との共同批准によって誕生させたのが上記の三大軍系企業グループなのだ。


2005年12月27日、米国政府はイランへ武器・兵器を輸出したとして、中国6企業に対して2年間の制裁を科することを発表した。アメリカによる中国企業への制裁は03年7月から数えて3度目になる。この05年の制裁で名指しされた6社に加えて、計三回の制裁でブラックリストに載せられた企業をいかに並べてみよう。

中国北方工業公司

欧米諸国でも「NORINCO」の通称で浸透している世界的な軍火商(死の商人)である。解放軍陸軍の武器・兵器を輸出する企業として最大規模を誇るほか、石油、資源開発にも手を広げている。かつて北方工業は「地上にある武器・兵器であれば、扱っていないものは無い」とされた。海外で「潤沢な資金と北方工業さえあれば、明日にでも陸軍を一つ作ることができる」と言わしめた企業だ。

中国航空技術進出口総公司 CATIC

主力品である戦闘機・爆撃機、制裁対象になったのはイランに輸出した戦闘機。

中国長城工業総公司

衛星打ち上げの商業化に伴って設立された企業。長城公司はこれまで、アメリカのモトローラ社をはじめ、フランスやオーストラリアの企業からの委託を受け、商業衛星を打ち上げ軌道に乗せることに成功したほか、パキスタンなど多くの国からの依頼で衛星打ち上げも行ってきた。

中国精密機械進出口集団公司

防空に関する兵器・システムの開発から生産、販売までを一貫して行い対外貿易までを手掛けている。兵器のラインナップに見られる特徴は、主力製品をミサイルに置いている点だ。

中国工業江西洪都航空工業股分有限公司

中国初の国産航空機の生みの親で航空機メーカーの草分け的存在。しかし洪都公司が世界で注目を集めたのはこうした航空機ではなく、ミサイル技術に関してアメリカからの制裁対象に指定されたからだ。


1989年、北京で天安門事件が起きた際、広場を埋め尽くした学生・市民を銃弾によって排除した中国の行為に対して、西側社会は一斉に制裁に動いた。これが表の歴史である。だが実際にはもう少し複雑な駆け引きが国際社会では行われていた。例えば米中間では、制裁発動の直後から非公式な接触を繰り返し、実質的には制裁を空洞化させてしまっていたのである。真面目に制裁を行っていたのはヨーロッパの一部と日本だけであったというのは、今や世界の常識である。そして、この米中間の水面下の接近を不可避とさせた理由の一つが、当時の中国が行っていた武器輸出の実績だったという説は根強い。アメリカの対中東戦略の悩みの種となっていたイラクに中国が輸出したシルクワームが、米軍にとっての大きな関心事となり、その情報を中国がアメリカに提供するという条件によって水面下の動きが活発化したというのだ。今や兵器の輸出大国としての一角を担うようになった中国は、時に西側の国々に対しては外交カードの1つとして、また中東地域の国々やアフリカ諸国に対しては援助の切り札の1枚として、政治力を存分に活用しているのである。

朝鮮戦争やベトナム戦争では、中国は相手より大きな犠牲を払っても戦闘を継続できるという強みも見せた。これは装備など火力面とは別の意味で、重要な戦闘力だと言える。江沢民の時代にアメリカとの緊張感を高めた中国では、このことを意識してか「アメリカの若者が数万人単位で死んだら、クリントンは大統領で入られなくなるだろう。しかし、中国の若者が数百万単位で死のうが、江沢民の地位が揺らぐことは無い」と盛んに宣伝した。

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日本では秘密は保てない

アメリカが情報管理において日本を全く信用していないことは、日米外交史の中でもたびたび証明されてきた事実だ。例えば70年代、日本の頭越しに米中が接近し、ニクソンショックに至った過程だ。このときアメリカ外交の重大な転換が日本に通告されたのは、同盟国でありながらキッシンジャー訪中のわずか6時間前だった。またこの後、ニクソン大統領の突然の訪中に触発された日本が日中国交正常化に動いた時も、中国が一部の微妙な外交交渉を秘密会議にしようと持ちかけてきたのに対して、日本側は「日本では秘密が保てない」と拒否した経緯もある。70年代と言えば昔の話にも思えるが、重要情報の管理に対する日本人の甘さは今も変わっていない。それを証明したのが、2010年9月に起きた尖閣諸島沖漁船衝突事件を巡る反応であった。「あの事件の後、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する瞬間の映像がインターネットに流出しましたが、国民の多くはビデオを勝手に公開した海保職員の重大な違法行為を問うことはせず、逆に彼を英雄視したのです。いみじくも日本の組織には情報漏洩が相変わらず簡単に起きる、という脆弱さが眠っていることを証明したのです。こんな幼稚な国と重要情報を共有したくないアメリカの気持ちも理解できますよ」

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