イスラーム国の衝撃 2/4~アフガニスタンにおけるアメリカ

追いつめられるアル=カイーダ

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ターリバーン政権が瞬く間に崩壊していく中で、アル=カイーダも主要な人員を失った。ビン・ラーディンの側近で主要な宣伝ビデオにもしばしば顔を出していたムハンマド・アーティフなどが、この時に死亡している。2001年11月17日以降には、アル=カイーダはターリバーン勢力の一部を含む1000人程度の軍勢とともに、アフガニスタン東部トラ・ボラ(Tora Bora)の洞窟に立てこもった。トラ・ボラは国境地帯に位置し、ハイバル峠を越えればパキスタンの連邦直轄部族地域(FATA)に至る。そして国境に横たわる「白山脈」には洞窟が連なる。米軍はトラ・ボラに集中的な空爆を行い、アフガニスタンの地元勢力が、地上での掃討作戦を担った。12月16日までにすべての洞窟を制圧し、200人のアル=カイーダあるいはターリバーン兵の死体が見つかったという。

このような大規模な軍事作戦にもかかわらず、ビン・ラーディンは忽然と姿を消した。トラ・ボラの攻撃を逃げ延びたことで、ビン・ラーディンは伝説となった。10年後の2011年5月2日に殺害されるまで、ビン・ラーディン自身が公の場に出たことはない。ビデオや音声のメッセージでその姿や発言が伝えられるのみだった。トラ・ボラの戦闘の後、ビン・ラーディンは直接の司令官というよりは、象徴的な指導者として、アイコンとして機能するようになったのである。取り残されたアル=カイーダのジハード戦士(ムジャーヒディーン)たちは、南部のバクティア県のシャーイコート渓谷(Shah-i-Kot Valley)に結集した。これに対して2002年3月1日から18日かけて行われたアナコンダ作戦は、アフガニスタン戦争での最大規模の戦闘といわれる。この段階になって、米軍の通常部隊が参加した。それまで地上戦は、主に特殊部隊によって担われていた。


米国の「対テロ戦争」の特色は、正規軍による攻撃や、通常の警察・司法協力による手続きとは別の、非通常型の軍事力や、適法手続きを逸脱した手法を駆使したことである。さらに最先端のテクノロジーを生かした新兵器も次々に投入された。代表的なのが①特殊部隊による隠密作戦、②CIAが統括するドローンによる攻撃・暗殺作戦、③超法規的な拘束と送致である。非通常型でしばしば法の適正なプロセスを逸脱した手法が用いられ、最新の高度なテクノロジーが駆使されたのは、この「戦争」が、アル=カイーダという、宗教的な理念に基づいて国境を越えて活動し、テロを主要な武力行使の手段とする非国家主体に対する「非対称戦争」だったことによる。相手が国家ではないため正規軍同士が向かい合うわけではない。テロ組織は一般社会の中に沈むことが多いため、通常兵力による攻撃では「付随的被害」が甚大になる。それでも米軍の攻撃による付随的被害は、かなりの規模で生じたが、特殊部隊やドローンを駆使することで正規軍による攻撃よりも犠牲を減らしたとは考えられる。

アル=カイーダのような非国家主体が、米国の対テロ戦争に必ずしも全面的に協力的ではない同盟国に身を隠している場合、正規軍の導入はほぼ困難となる。正規軍の展開には、現地政府の支持と協力を得る必要があり、それが事実上得られない場合、軍を展開するには、その政府を敵国・テロ支援国家と認定して覆すしかなくなる。しかしパキスタンやイエメンなど、米の対テロ戦争に政府が表面上は賛意を示し、米国としても切実に軍事・諜報・警察面での協力を必要としている場合、正面からそれらの政府を敵と認定するわけにはいかない。しかしそれらの政府が実態としては敵対組織に有効に対処できていなかったり、対処する明確な意思を持たなかったり、政府内部に敵対組織の内通者がいると疑われる場合には、政府間協力を要請することに効果がなく、かえって逆効果にすらなりかねない。そのような場合に、相手政府に情報を与えず、許可を得ないまま、特殊部隊による「外科手術」的な隠密作戦や、ドローンを駆使した空爆による暗殺作戦を選択する場面が多くなる。特にイラクやアフガニスタンからの正規軍の撤退をもって、自らの政権の正当性や成果としたいオバマ政権期になってから、ドローンや特殊部隊を駆使した非通常型の、隠密裏の作戦の頻度は飛躍的に増加した。


超法規的拘束は、米国内法制上の制約を外して「対テロ戦争」を迅速・大規模に行うために拡大していった。米国は、アフガニスタンで捕獲して敵性戦闘員の多くをキューバに位置するグアンタナモ米海軍基地に設置した収容所に収容し、戦時捕虜に対する国際法の規範も、犯罪容疑者に対する米国内法の規制も受けない、曖昧な法的立場にあると認定して、超法規的に拘束し尋問を続けた。オバマ大統領は、この状況を不適切として、選挙公約でグアンタナモ収容所の閉鎖を主張して当選したが、いまだに閉鎖は実現していない。超法規的送致(Extraordinary Rendition)は、ジハード主義の影響を受けていると見当をつけた個人を、アフガニスタンだけでなく、米国や西欧諸国を含む世界各地で拘束したものの、米国内では適正手続きをもって尋問をできないため、超法規的な手段で国外に移送し、秘密施設に長期間拘束して、拷問を伴う尋問を行ったものである。

米国の超法規的送致に協力した国は54か国に及ぶ。アフガニスタンに駐留する米軍基地の内部に収容・尋問施設が作られたほか、サウジアラビアやエジプトなどの拘束者の出身国だけでなく、とくにつながりのないポーランドやリトアニアやグルジア、ボスニア・ヘルツェゴビナなども積極的に秘密施設や拘束場所を提供した。これらの国々は冷戦終結後に米国との同盟関係を結び、安全保障面で大きく依存していたため、米国の後ろ暗い要求にも応じたのだろう。ドイツ、ギリシア、イタリアなど西欧諸国も超法規的送致の経由地とされながらも黙認していたことが発覚し非難された。シリアやリビアやイランなど、米国としばしば敵対してきた、政治犯への人権侵害が著しいとして米国が非難してきた国にさえしばしば移送され、米国の意をくんだ尋問が行われたのである。

【治外法権領域】
2015.10.06 ロベスピエールとフランス革命 4/4~議員特権
2013.05.30 基地と人権 1/2 ~米兵の特権
2012.02.07 中田宏(元横浜市長)とちきりんの対談
2011.07.11: 父親の条件1/4 ~父の冷徹さと過剰期待
2011.04.15: 山口組6代目組長が5年ぶり出所へ
2010.11.11: 宗教から読む国際政治 ~アメリカ・ユダヤ人社会
2010.09.29: 世界四大宗教の経済学 ~イスラム教と仏教
2010.07.29: 闇権力の執行人 ~対検察
2010.02.15: 通信隊 それは陸のOff-Shore 
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