最適行使モデル主題による交響的変容 1/2 ~商品性と必要性

新株予約権、アメリカン・オプション、従業員ストック・オプションなど、最適行使モデルによるバリュエーションが必要なデリバティブ群であるが、これらを、ちょっと扱う可能性があったので、また職人VBA関数を作ってしまった。プレーンバニラ、いわゆるヨーロピアンのブラックショールズならば、グリークの計算からIVの逆算ロジックまで含めて2-3時間で完成、VBAのソースコードもプリントアウトしたら、A4用紙約1枚で収まる程度の長さである。それに比べると、解析的に解くのが難しいアメリカン・オプションの評価モデルは、簡易モデルとは言え、数日かかった。

ここまで時間をかけて対応しているこの私に対して、とある金利系の後輩が、「そんなん、わざわざ作る必要あるんですか? c=Cって書いてあるし。」と、"のたまった"。c=Cだけを見て、出展がわかる諸君は、日本には珍しいデリ・オタレベルにあると言えよう。答えはJohn Hull、配当の無い株式のアメリカンオプションの価格Cは、ヨーロピアンの価格cに等しい。 というような記述があるはずだ。この教科書通りの文言をもって、"金利系"デリバティブの人間が、「アメリカン・オプションなんて、ヨーロピアンだと思ってバリュエーションしておけば良いんじゃねーの?」的な主張をしているように聞こえたので、この場を借りて、徹底的に斬っていこう。

まず、John Hull自体も、当然ながら配当の"ある"株式のアメリカン・コール・オプションの価格>ヨーロピアン・コール・オプションの価格 とはっきり書いてある。これは既に、この金利系デリバティブの後輩に対しての説明記事を書いているのでこちらを参照して欲しい。


そして、この記事の冒頭に書いたように、世にあるアメリカン・オプション、例えば最初の新株予約権には、元本支払いがないオプションタイプ、旧呼称・転換社債の債券タイプがあり、いずれもアメリカンのコール・オプションが内包されている。また優先株や従業員ストックオプションなども、配当が問題になるアメリカンの"コール"オプションなのである。アメリカンのプットなどは、テクニカルなインデックス・オプションや、優先株などに内包されている転換価格下方制限などで密やかに存在しているだけで、メインはコール・オプションである。

配当なんて普通は1~2%程度でしょ? そんなに影響あるのかね?

配当率=Dividend Yieldは、大体1~2%で収まることが多いが、もし1ヶ月のオプションで、その間に配当落ち日が含まれていたらどうする? 年率1.5%、2回の配当だとすると、0.75%に値する配当が1ヶ月で起こるわけだから、オプション期間中の配当率にすると、9%になる。この値は小さいか? これは金利のような金利×時間という連続的な概念とは全く異なる。株式の配当の突発性、配当落ち日までに取引すれば、配当がもらえるが、それ以降はゼロという"離散性"を考慮しなければならない。配当率q%などというインプットなどで表現する連続配当を想定した、連続的な幾何ブラウン運動で果たして十分なのだろうか?


ここまで、一般的な最適行使モデルの必要性を説いていたわけであるが、ここからは私が作った最適行使モデルについて言及していこう。

まず最初のステップとして、最も単純なBinomial Treeの連続モデルでAmerican Optionを作ってみよう。バイノミアル・ツリーとは、時間をn個に分割し、株価を一つの時間区切りごとに2つの離散プロセスを発生させる手法である。n分割して各点2個だから2^n個になりそうだが、下記のような上下比率を保つと(上昇率をu、下落率をdとするならば)

例えば2stepのプロセスで、一回アップして、一回ダウンするとu・d=u・1/u=1で元に戻るゆえに2Step目はu^2、1、d^2の3つしか存在しないので、時間をn分割しても、満期時点での株価はn+1個となる。この時間当たりにこのσ√tで拡散している2つの株価が、ボラティリティσを生成している。一方で、上下のパスに対する推移確率を下記のようなリスクニュートラル確率で定める。

アメリカン・オプションだけなら満期時点でのMax(S-X,0)をバックワードインダクション、各点において、行使価値と継続価値を比較しながら最大価値を取って行く。という非常にシンプルなモデルなので、連続的な幾何ブラウン想定のバイノミアル・ツリーだけなら、これまた数時間でできる。連続的な幾何ブラウンのバイノミって、バイノミは離散じゃないか! と思わず突っ込んだ諸君は、貴君はフィックスド・インカムに所属しているだろう? 連続的な という言葉は、「連続的な幾何ブラウン想定」 の バイノミアル・ツリーなのだよ。わかるかね? つまり離散配当には対応していないという意味なのだ。エクイティ・デリバティブ業界ではこの辺りの言葉遣いで、いちいちひっかかることはないので、記憶しておくように。

これに色々加えていく。続きはまた。

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